ちょっと生きづらさを抱えた人へ、気持ちを楽にするためのお手紙です。

翻訳の女言葉の謎

スモークサーモンとクリームチーズの組み合わせの美味しさに
気がついた人は、天才だと思うみすくです。こんにちは。

趣味で翻訳をやっているのでーずいぶん長い間サボっているのであるがー、
女性の話し言葉の翻訳のコツを知りたいと思って調べていたら、
なぜ女言葉・オネエ言葉で翻訳されるのか?という疑問を持つ人もいらっしゃるのですね。
自分で翻訳をやってみれば理由はすぐわかります。

女言葉で翻訳したほうが圧倒的に簡単であり、
女言葉を使わないのであれば、より高度な日本語力が必要だから
です。

実際にやってみましょう。

まず、翻訳するシーンは、
地球から別の惑星ゴルに誘拐されたエレノアは、いろいろあって奴隷商人につかまり、奴隷の身となった。
ゴルでは奴隷は耳にピアスをされる。
地球人であるエレノアは、ピアスくらいなんともないので余裕ぶっこいていたら、
鼻にもピアス(牛のように鼻の真ん中を通すタイプ)をされ、屈辱で泣くじゃくる。
ゴル人からすれば、鼻のピアスは奴隷以外もするファッションだが、
耳のピアスは奴隷だけがするものなので、自分の立場を思い知らされ耳のほうがショックが大きい。
だからエレノアがなぜ耳のピアスは平気で鼻のピアスに泣くのかわからない。
同じ奴隷の立場で、頭はあまり良くないが美しく優しいユートが泣くエレノアを慰める。

では、翻訳してみましょう。原文はこちら。

“I do not understand, El-in-or,” she said. “The most terrible thing you do not mind. You are then very brave. And then you cry about a little nose ring. It is not like having your ears pierced.”
“El-in-or is a coward,” said Rena of Lydius.
『Captive of Gor』John Norman著

まず、女言葉で翻訳してみます。
「わからないわ、エリノア」彼女は言いました。「あなたは一番恐ろしいことは気にしていないわ。さっきはとても勇敢だったわよ。そして小さい鼻環に泣いているわ。耳のピアスほどじゃないのよ。」
「エリノアは臆病者よ」リディウスのリナが言いました。

女言葉での翻訳文から、単純に女言葉を抜いてみます。
「わからない、エリノア」彼女は言いました。「あなたは一番恐ろしいことは気にしていない。さっきはとても勇敢だった。そして小さい鼻環に泣いている。耳のピアスほどじゃない」
「エリノアは臆病者」リディウスのリナが言いました。
女言葉を抜きましたが、別の不自然さが出ました。
頭はあまり良くないが美しく優しいユートのセリフとは思えませんね。

次に、ですます調にしてみましょう。
「理解できません、エリノア。」彼女は言いました。「あなたは一番恐ろしいことは気にしていません。先ほどはとても勇敢でした。そして小さい鼻環に泣いています。耳のピアスほどではありません」
「エリノアは臆病者です」リディウスのリナが言いました。

英文解釈の宿題みたいになりましたね。かなり下手な日本語です。

女言葉をやめつつ、自然な日本語を目指して翻訳してみます。
「どうしたの、エリノア」ユートは言いました。「いちばん恐ろしいことは気にしてないよね。さっきはとっても勇敢だったのに、小さい鼻環で泣くなんて。耳のピアスほどのことじゃないでしょ」
「エリノアの臆病者」リディウスのリナが言いました。

日本語としては自然になったし、頭はあまり良くないが美しく優しいユートの雰囲気に合う話し方になった、と思いますが・・・、
原文のとおりには、翻訳できていないですよね。
原作者が、“What’s wrong?, El-in-or,”(どうしたの、エリノア)ではなく、
“I do not understand, El-in-or,”と書いたのであれば、
ユートが言いたいことは、「あなたはどうしたの?」ではなく、「わたしはわからない」です。
全体のニュアンスも変わっています。
日本語のリズムを保ち、読みにくくなる単語を避けた結果、
わたしが作者でもないくせに創作しました
原文のとおりで、自然な話し方で、キャラクターの雰囲気にも合う日本語で翻訳するだけの、
力量がなかったからです。
しかも、自然な日本語をひねり出すため、女言葉版の何倍もの時間がかかりました。

女言葉での翻訳は女言葉が不自然ではあるけれど、意味としては一番原文に忠実です。
圧倒的に簡単でしょ。

女言葉で翻訳される理由を、ジェンダーや文化の問題として論じている人ばかりだけど、
わたしには日本語力の問題としか思えないな。

みんなのモヤモヤ、晴れたかな?
good day

4 COMMENTS

いぬ研究所

「日本語力の問題」……おっしゃる通りだと思います。結局はそれに尽きます。
日本語の語尾表現は単なる飾りではなく、それぞれにきちんとした意味があるんだという事を、ネイティブであるはずの我々は理解していません。
意図してオネエ言葉を使うにしてもですね……「〜わ」の意味を考えずに乱用されると私は違和感を覚えます。
なので、語尾表現(文末表現)の翻訳に関するドキュメントみたいなのを真面目に作った方が良いと考えています。

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みすく

いぬ研究所 さん

コメントありがとうございます。
このブログの中で、書くのに最も時間がかかった記事のひとつなので、
コメントをいただけて嬉しいです。

いぬ研究所さんのサイトも拝読させていただきました。
語尾でのニュアンスの違いの考察、わかりやすくておもしろかったです。

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いぬ研究所

返信ありがとうございます。
拝読いただいたという事ですが実はその後も、新しく気づいた事についての追加・修正をけっこう繰り返してます(笑)

『Captive of Gor』の例文についてですが、
んんー、今の私の屁理屈から考えると「単なる叙情は語尾不要」なので、私なら「単純に女言葉を抜いてみます。」の後のような翻訳をベースにしますかね……
I とか you を使ってる文章なら「よ」「ね」が合うはずだと思いつつも、まあ、そのへんの英日翻訳ルールはまだあんまり考案していません。
あとは「〜て…」「〜から。」「〜けど。」「〜し。」みたいに接続詞で文を打ち切ってしまう言い回しなども応用がきくと思います。
意外と忘れられがちな感嘆表現の王道は「〜なあ。」 ←これ大事。

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みすく

いぬ研究所 さん

また読みに行きました。勉強になります。
確かに自然な日本語に翻訳することも大事なんですが、
個人的には、全キャラクターが同じしゃべり方をする小説が嫌いだったり、
「適度な翻訳感(?)」が欲しかったりします。
翻訳に必要な日本語力って、なかなかハードルが高いですね。

「~なあ」
うんうん、これ大事ですね。自然なのに忘れがち。

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